鹿児島地方裁判所 平成9年(行ウ)4号 判決
原告
医療法人徳洲会(X)
右代表者理事長
徳田虎雄
右訴訟代理人弁護士
濱秀和
同
宇佐見方宏
被告
鹿児島県知事 須賀龍郎(Y)
右訴訟代理人弁護士
和田久
右指定代理人
佐藤公昭
同
吉見哲也
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事実及び理由
第四 認定事実(本件の経過)
〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
一 「(仮称)出水中央病院開設計画書」の提出(〔証拠略〕)
原告は、主として西日本地区に病院を開設して医療業に従事してきたが、鹿児島県出水市周辺区域の外、同県名瀬市や屋久島において新たな病院開設を企図し、出水市周辺については、同市文化町付近を病院建設の候補地として計画立案をし、これらの申請をすることとして事前の調査等をしてきていた。
原告では、出水市に立案していた病院の開設許可の申請手続を松代に任せることとし、同人は、周辺の関係医療機関の意向を確認するなどしていたが、立案は煮詰まり、出水市文化町三六〇番地ほか一六筆を買収して同土地に内科、小児科等を診療科目とする出水徳洲会病院を開設することとし、開設予定地について仮の売買契約を締結して敷地を確保した上、松代を介し、平成七年二月ころ、医務保護課に「(仮称)出水中央病院開設計画書」(〔証拠略〕)を提出した。同計画書には、開設者を原告とし、病床数・規模を六階建、二一二床、延建坪二三〇〇坪とし、診療科目を内科等七科目と人工透析とする内容のものであった。
松代は、同月二〇日、医務保護課を訪れ、鈴江久輝主幹兼医務係長(以下「鈴江係長」という。)らと面談し、開設予定の病院について、「二一二床で申請したい。少なくとも一五〇床は欲しい。」「名称は出水徳洲会病院となる予定。」「正式な事業計画は後日提出する。」等と説明し、鈴江係長らは、出水市立病院と「競合する病院である。」「病床数については、調整になる。」等の発言をした。
二 「出水徳洲会病院開設計画書」の提出(〔証拠略〕)
松代は、平成七年二月二八日、「出水徳洲会病院開設計画書」(〔証拠略〕)を鈴江係長に提出した。同計画書には、開設者を原告、開設場所を出水市文化町三六〇番地ほか一六筆とし、開設の主旨又は理由として「出水市は県北部の中心都市であり、後背地としては高尾野町等をもち、その医療需要は大きなものがある。救急急病医療を中心として、小児科等の専門医療を強化した総合的な医療が供給できる病院を目指す。」旨が記載され、病床数、規模を「六階建、二一二床、延べ建坪二四〇〇坪」とし、診療科目を内科等八科で人工透析もすること、土地確保の状況として前記文化町の約三七〇〇坪の土地の地権者と仮契約を済ませている旨が記載され、出水郡医師会等周辺医療機関とのコンセンサスの状況が記載され、事業計画概要書、年度損失計画表、収支予想算出内訳、開設場所住宅図面等が添付されていた。
三 本件申請書の提出、受理(〔証拠略〕)
右の経過を経て、平成七年三月三日、松代は、出水保健所に病床数二一二床の本件申請書正本及び副本の二通(〔証拠略〕)を提出し、受理された。同申請書には、開設者氏名として原告名がタイプされていたが、代表者名下に理事長の公印の押捺はなく、所定の収入証紙も貼付されていなかったものの、表題部分に「別紙のとおり、病院を開設したいので、医療法七条一項の規定により申請します。」との記載がされ、施行規則一条による他の要件記載もされており、細則二条の定める様式に従った別紙が添付されており、正式な申請書として欠けるところはなかった。
四 被告主張の合意について(〔証拠略〕)
松代は、平成七年三月下旬に鈴江係長と面談したほか、その後、一か月に一回、約二〇回にわたって同係長やその後任の佐藤係長と、開設予定病院の病床数等について協議をしていたが、同年一一月一三日の医療審議会では、屋久島について、特例加算をして徳洲会病院の開設を認める旨の話に進展し、その後も同八年一月一一日に松代と佐藤係長の間で協議がされるなどした。そして、同年二月八日に、前記第二の二4記載のとおりの話し合いが行われた。
五 出水保健医療圏の現状(〔証拠略〕)
平成九年八月現在の出水保健医療圏における医療施設等の現状は、医療施設数は、病院一〇、一般診療所五六、歯科診療所三〇であり、患者数は、流出の状況にあるが、県が医療計画で定める必要病床数の残は、二一七床であった。
第五 争点に対する当裁判所の判断
一 争点一(本件申請書は、行政指導の前提としての事前協議の申出書と扱われるものか。それとも病院開設の申請書としての実質を有していたものか否か。)について
1 本件申請書については、本件訴訟提起後、被告において所定の収入証紙の貼付等を求め、少なくとも、平成九年一〇月七日までには、原告において被告指示の補正をしているのであるから、既に許可申請が受理され、行政庁による第一次的判断を待つ状態となっていることは明らかである。
もっとも、右申請に対する被告の判断、処分はされていないのであるから、被告主張のとおり、その申請が不十分なものであったとすれば、なお、判断に日数を要し、本件訴訟の口頭弁論終結日までに被告の判断がされないことが違法とはいえないこともあり得るので、さらに本件申請の経過等について検討する。
2 病院開設の許可申請は、開設の場所を管轄する県保健所宛に提出されることになっているところ(細則三三条)、本件申請書は被告への受付窓口とされる県出水保健所に提出され、本件申請書には、文字通り「病院開設申請書」の記載がされ、他の申請やこれに関連する協議を求める旨の書面とは異なるのであって、被告の処分、第一次的判断権の行使を求める意思が明確に表示されているのであるから、これを表題等と異なる書面と解するには、特段の事情を要するというべきである。
しかるに、提出の際の態様をみても、原告では、本件申請書の正副二通を提出した上、判断の資料となる開設後の病院に勤務する医師名等を記載した資料も添付しており、窓口機関である保健所においても一応の審査を受けたと推認され、その後の審査資料として欠けるものがあったとはいえない。もともと、原告では、平成七年二月に事前協議の前提となる出水中央病院開設計画書(〔証拠略〕)を提出し、その後には出水徳洲会病院開設計画書(〔証拠略〕)を提出しており、再度、事前の協議をすることを明確にした申請書を提出する必要はなかったのであり、その後、被告において補正を命じて完成させていることは、本件申請書が申請書としての実質を有することの証左であったということができ、また、収入証紙を貼付しなかったものの、後日に貼付する意思のもとに貼付しないようにとの指導を受けた旨の証人松代の証言は信用できるといわねばならない。
被告は、病院開設申請の際には、事前の協議がされてその調整が整った段階で申請がされることになっており、本件申請書は、事前協議の添付書類であった旨の主張をし、証人安達、同鈴江及び同佐藤は、これに副う証言をするが、本件申請書は病床数の調整を担当していた医務保護課に提出がされたのではなく、わざわざ受付窓口である県出水保健所に提出されたのであるから、経由して受領した医務保護課の担当者においても、提出の経緯について確認すべきところ、右証人らは、何らの確認をすることなく、右証言等は、極めて不自然というほかはない。また、事前協議の点についても、これが法的に求められているものではなく、一方的な主張に過ぎない上、右証人らの証言するとおりの慣行であれば、出水郡医師会第二病院の申請については、申請書が提出された時点では、協議、調整が済んだ時点の提出であるはずのところ、被告では、その調整が未了としてその後も長期間にわたりいわば凍結したままであったのであるから、被告自身が一貫した取扱いをしていないといわざるを得ないのであって、これらの点を総合すれば、右証言等は、極めて不自然であり、採用することができず、被告の対応は、当初からその申請を正式な申請書として扱わないとの意向のもとに対応したと疑われても仕方がないものがある。
3 以上のとおりであって、本件申請書は、申請書としての内容を有するのであって、これを否定する被告の主張は、採用することができない。
二 争点二(被告は、原告との間に申請を当分の間、棚上げする旨の合意が成立したとして申請に対する許可等をしないが、その合意が成立したか。また、これを理由に許可申請の応答をしないことは、不作為の違法性を欠如させるか。)について
1 被告は、原告との間で本件申請を棚上げする旨の合意が成立したと主張するが、もともと、被告は、本件申請自体がされていないとして否定していたのであるから、申請を前提とする合意の存在は、その前提を欠き、失当というべきものである。
また、被告主張の合意について、当該申請者である原告と判断権者である被告との間で、当分の間、申請についての判断を留保することの合意であると解するとしても、その合意の当事者、内容自体が明確ではなく、もともと、被告は、病床数の調整の必要があったと主張し、この点は、競合する出水郡医師会第二病院の申請との病床数の調整のほかにはないのに、その関係者の出席や意思確認もないまま調整がされ、棚上げされたとして双方の申請の判断が留保されることとなるのは、納得し難いところというほかはない。
さらに、当分の間の留保としても、申請者においてその意思表示を撤回し、再度、早期の判断を求めることが許されないはずはなく、原告が申請をしていた名瀬徳洲会病院や出水徳洲会病院開設のために原告定款の変更がされる必要があったとしても、それをもって判断権者である被告において考慮してその判断を留保すべき事由とはいえない。
2 前記平成八年二月八日の出席者らの地位等とそれまでの協議の経過のほか、原告開設予定の病院は大規模であり、土地買収等を通じて事前に開設意向は周辺地区には明らかで、これに利害を有する者は多く、調整等として県がその解決を求められるのは、当然の成行きであること、本件訴訟提起後に出水郡医師会第二病院の開設許可がされていることなどの経緯等に照らせば、右被告主張の棚上げの合意は、単に関係当事者間において凍結することになったとして解決を図るべく、一応の形式がとられたに過ぎないと評価すべきものである。
3 以上のとおりであって、被告主張の合意が成立したとの主張は、採用することができず、本件申請は、既に平成七年から相当期間が経過し、その後の協議も重ねられ、原告においては、被告主張の調整、行政指導については、協力しないとの意思を明確に表示して本件訴訟を提起したものであるのに、なお、被告においては、申請の存在自体を争ってその許可、不許可等の第一次的判断をしなかったのであるから、その違法性は、明らかに認められるというほかはない。
(裁判長裁判官 牧弘二 裁判官 山本善彦 近藤猛司)